TATERU YOSHINO

2024.09.01

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かつてセバスチャン高木が依頼を請け負って、彦十蒔絵が制作を担当した新千歳空港直結の「ポルトムインターナショナル北海道」ホテル内にあるモダンでクラシックなフレンチレストランTATERU YOSHINOの為に制作したインスタレーションのご紹介をします。

ポルトムインターナショナル北海道は日本美術を本来の姿で鑑賞するテーマとして、作品のセレクトは和樂の高木史郎編集長(当時。セバスチャン高木)と永青文庫の橋本麻里副館長(当時)がアート後バイザーとして携わり、開業の何年も前から選定と収集を始めたという。彦十蒔絵の主宰である若宮隆志も制作の話を打診され、企画提案やオンライン打ち合わせなども含めて2年弱かかったプロジェクトは2020年1月にご納品と設営ができました、しかし、世界の動きを止めた新型コロナの襲撃によって世に公表するタイミングを逃してしまいました。
*当時の美術手帖には紹介の記載がありました。

漆チャンネル第78回の放送でこの取り組みをご紹介しましたので、ここで追加説明を致します。

(以下はポルトムインターナショナル北海道のHPより抜粋)

「ポルトムインターナショナル北海道」にしつらえられた
日本美術はさまざまなジャンルで構成されています。
北斎、広重などの浮世絵、若冲、芳中、白隠といった
江戸名画の名品、江戸から明治にかけて制作された工芸品はもちろんのこと、
現代にまで連綿と続く左官、染色や蒔絵の技法を駆使したインスタレーションなど、
多様な美がそこかしこにあふれています。
今や新千歳空港は北海道の玄関であると同時に、日本の玄関でもあります。
国内外からさまざまなお客様を迎え、心ゆくまでくつろいでいただくことを目的とし、アート作品を展示しています。

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「北海道の自然」年輪・海・月・空

乾漆蒔絵(かんしつまきえ)インスタレーション

北海道の自然をテーマに日本の伝統工芸である漆芸(しつげい)技法によって制作

↓制作部分は素地(そじ)と加飾(かしょく:装飾)に分けて考えます↓

「素地」は乾漆(かんしつ)技法で制作
乾漆とは、奈良時代の仏像(有名なものに興福寺の国宝阿修羅像がある)などにもみられる漆芸技法の一つで、麻や綿の布に漆を塗り重ねる技法、
乾漆素地は木地よりはるかに軽くて丈夫なだけではなく、割れやヒビなども防ぐことができ空調の効いた現代の空間に最適な方法です。

「加飾」は蒔絵の技法を駆使しチャレンジした
材料は、金箔(きんぱく)、銀箔、プラチナ箔、銀平目(ぎんひらめ:銀の粗いやすり粉を平らに薄くのばしたもの)、和光銀(通常の銀より光沢感がある銀)、色漆、炭粉などを使用し表現。

*最後に保護加工もしてあるため銀の劣化を防ぎます。

制作チーム:彦十蒔絵 12人体制 ・ 総監督 若宮隆志
制作方法: 乾漆、塗り、蒔絵など伝統的技法の再構成アレンジによる制作
展示する場所:ポルトムインターナショナル北海道
フレンチレストラン「TATERU YOSHINO」

制作開始にあたって、まずは北海道から彦十蒔絵へ送られてきた本物の丸太を見本に考え始めました。


樹木は北海道の大地からの栄養を取り入れて成長します、年輪は樹木の成長の証であり樹木の歴史そのものであることから、北海道とそこに住む人々の時間の経過と歴史を丸太と年輪によって表現、
レストランとレストランに来られるお客様の成長と発展を願い制作!

『年輪』
●丸太の正面は真ん中に金箔、周りにプラチナ箔を貼り付け、その上に炭粉をベンガラ漆に混ぜて筆で盛り上げるように年輪の溝を描き、最終的には金箔を全面に引き詰めて貼り付け、年輪がちょうどいい感じに現れるように磨きました。

『海』
海に囲まれた北海道を表現、
北海道は海からの恵みによつて発展、海の豊かさは大地の豊かさであり自然の循環を表現!
●波部分についてはプラチナ箔で表現、背景は和光銀に青塗り込み、研ぎ出し蒔絵(蒔絵を施した上に,透明漆か黒漆あるいは彩漆 (いろうるし) を塗り,乾燥後木炭で蒔絵面までとぎ出し,さらに摺漆 (すりうるし) を塗って油と砥粉 (とのこ) などで磨いたもの)です。
●このデザインのモチーフは日本美術でも人気が高い琳派(りんぱ)の代表的絵師である尾形光琳(おがたこうりん)の描いた松島図屏風(まつしまずびょうぶ)からで着想を得ました。彦十蒔絵は蒔絵の技法で光琳の絵を漆で再表現してみたものです。

『月』
月の銀と年輪の金は一体であり日月である。
月は地球に大きな影響を与えるていますし、
特に潮の満ち引きによって人の体に与える影響も大きい!
●月面のクレーターを高蒔絵(たかまきえ:地盛りをした上に蒔絵を施したもの。漆だけで盛り上げる方法や、漆の上に炭粉を蒔きつけてさらに高く盛り上げる方法などがある)で作り出し、所々銀の板を貼り付け、その上から全面に銀箔を貼り、クレーターのベース色を出しました。所々金箔も使い発色の強弱を表現。

『空』
広い空は、北海道の広大な大地をも表します。また、雲は恵の雨をもたらす大地の恵みでもあり、龍にもたとえられます。
大地と空は循環し人々に恵みをもたらします。

●全体的に和光銀を蒔いた状態で青い色の漆を塗り込んで乾いたら炭で研ぎ出します。最後に銀箔で雲を描きます 。
写真では写りにくいですが、青い部分の全体には和光銀が敷いてあるので、上品なツヤになっています。


実際に展示されている空間:
TETERU YOSHINO/ Portom international Hokkaido https://www.portom.jp/dining/frenchdining/

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試作:プラチナ箔と金箔のコンビネーションに合わせて漆の色合わせ。


試作:色漆と白漆の合わせ分量確認

試作:和光銀の号数(荒さ)の巻き具合によっての表現確認


限られた時間の中で失敗と試行錯誤の繰り返し
時間通りに仕上げるのはチームワークと監督の力
そしてプロの技、これは彦十蒔絵のスペシャルな醍醐味

彦十蒔絵制作体制 計12人で取り組んだ忘れられないプロジェクトでした。
どうぞ新千歳空港直結の「ポルトムインターナショナル北海道」ホテルをご利用の際にご覧ください。