メイド・イン・ワジマ 漆の時代

石川県輪島市漆芸美術館開館30周年記念特別展
『メイド・イン・ワジマ 漆の時代』

  輪島が漆器産地として全国的に有名になった背景には、時代ごとに新たな漆芸の姿を模索し続けてきた先人たちのたゆまぬ熱意と努力がありました。経営戦略、意匠や技、そして価値観の多様化に基づいた作り手による挑戦――現代に生きる私たちは、 「漆の時代」を生きるという一本の線で彼らとつながっています。途絶えることなく人々が手渡してきたものは何なのか、そして、時代の変容の波に翻弄されながらも、新たな変化を遂げつつある輪島漆芸がこれからもものづくりを行っていく意義を見出すことができるのか。石川県輪島漆芸美術館の開館30周年を飾る本展覧会で探ります。「漆」に込められた、作者たちそれぞれの生きざまをご覧ください。(美術館websiteより抜粋)

彦十蒔絵の作品も2点出品しております。

開催日:2021.9.13(Mon)~10.24(Sun)
主催・会場:石川県輪島漆芸美術館
助成/公益財団法人 花王 芸術・科学財団
後援:石川県・輪島市・輪島漆器商工業協同組合

彦十蒔絵の出品作品を簡単にご紹介致します。
作品<その一> 鉄瓶 鉄錆塗
本物の鉄瓶にそっくりの木彫漆芸鉄瓶1点と100年毎朽ちて行く様子を想定し再現した鉄瓶2点を制作しました。
美術館で展示するものは本物を含めて4点になります。
漆芸の可能性を探究して鉄錆塗で表現した面白い作品です。
↓↓↓ 制作した鉄瓶3点の裏です(展示室で見られないかも)

鉄瓶の外側は見て驚くかもしれませんが、
蒔絵の技術を見て欲しいのは蓋裏にあります!!
渦巻紋様〜〜


この渦巻紋様と言えば明治時代から大正時代に活躍した漆芸家の白山松哉です。
若宮隆志はこの紋様を今でも継承したいと思い、彦十蒔絵の蒔絵職人の三人に託しました。この渦巻紋様を蒔絵筆で描く際、どこから描いていいのか、筆をどう運ぶのか、描いた線を綺麗に表現できるのか、困難の積み重ねでした。
(蒔絵担当:大森修、松木大輔、小西紋野)
その中でも一番厄介なのは螺鈿の上に渦巻紋様を蒔絵することでした。
担当の蒔絵職人は完成させた後に・・・「もう二度とやりたくない!」と言うほど大変でした。

昔の漆芸家が出来て、どうして今の職人は出来ないのか!?
理由は簡単です。
「こなしている数が違うんです」
現代で、ここまで要求するお客様はほとんど居ないので、注文による蒔絵の制作にはまずこのレベルのメニューが出て来ないです。
やるチャンスがない、練習するチャンスがないので自然と出来ないのが普通になってしまいます。
鉄瓶の裏側にあるこの渦巻紋様は、言い方を変えれば若宮隆志のわがままによって生まれた産物の一つです(笑)。

作品<その二> 瀑布硯箱
銀地にした表面、沈金刀で大胆に彫りを施す
引用したのは狩野元信の瀑布図


輪島にある沈金技法は漆の塗り面を沈金刀で彫って、溝に漆を擦り込み、それから金粉や金箔を沈める方法ですが、この硯箱は和光銀による銀地仕上げにしているので、塗り面には沢山の和光銀粉が蒔かれています。硬い貴金属粉ですので、沈金刀で彫っていくとすぐに鈍くなり、沈金刀を研ぎながらの作業になります。それに、彫りの失敗は絶対許されないので、失敗すれば下地塗のところまで遡ってやり直す事になる、とても大変になります。。。。
想像してみてください〜〜沈金刀を研いで、銀地の表面を彫る、それも最高の集中力の状態で繰り返しながら進める、これは職人の精神性との戦いですよね!

さて、この硯箱に彫りの仕事をしたのはどのような容姿をしている職人さんだと想像しますか?
手に皺とコブがあって、中年もしくは還暦前の男性職人でしょうか?
実は当時アラサーの金髪女性職人(佐々木栞)に担当をしていただきました!!
才能は外見で判断したら行けない、「先入観を捨てて物事を見る」、若宮の制作にもよく使う意匠の一つです。佐々木さんが隠れ才能を持っていること、この作品によって若宮に引き出されましたね。

硯箱の中はこんな感じになっています。

中板と硯、水滴を取り除いたら、こんな感じになっています。

硯箱の親 内側には中国盛唐の詩人”李白”の詩「望廬山瀑布」の石拓本を沈金刀で文字の輪郭だけ彫りました。

日照香炉生紫煙 遥看瀑布掛長川 飛流直下三千尺 疑是銀河落九天

<<日本語訳>>
日光が香爐峰を照らすと光に映えて紫のかすみが立ち、非常に美しい。遙かに川の向こうに滝がかかっているのが見える。
その雄大なること、三千尺もあろうかと思われる飛ぶような流れがまっすぐ落ちているのは、丁度、天の川が天空より落ちてくるかのようである。

気づきましたか!?
この硯箱の表は日本の絵師ー狩野元信の図に合わせて、親の内側は中国の詩人ー李白の詩を用いた作品。文人が好む煎茶道では、瀑布と言えば李白の詩「望廬山瀑布」と連想します。若宮隆志は沈金刀のダイナミックさを表現するために狩野元信の瀑布図を選んで、そして瀑布の連想で繋がる李白の詩と合わせているところは何とも言えない洒落ですよね!日中友好の作品とも考えられます。

この2点の作品が輪島漆芸美術館の開館30周年記念特別展に出品します。
会期中に立ち寄ることが可能でしたら是非どうぞご覧ください。

マネージャー・高 禎蓮筆

本展覧会のクロストークセッション オンライン配信
配信日:*展覧会期最終日まで視聴可能
9月11日(土) 桐本泰一〔輪島キリモト〕×若宮隆志〔彦十蒔絵〕