彦十蒔絵ロゴサインの誕生秘話
2020.04.21
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2020年2月からスタートした(新)彦十蒔絵official web siteのトップページの左上にあるこのロゴサインですが、
彦十蒔絵と長いお付き合いがあるお客様でもこのロゴサインはいつから生まれたのかご存知ではない方が多いでしょう!
では、時系列で語って行きたいと思います。
(PS.少し長文ですが…どうぞお付き合いください)
↑若宮隆志↑
まずは我々の総監督である若宮隆志のことから語ります。
彦十蒔絵の漆芸作品の制作に関しては“すべて”若宮の頭の中から生まれています。
そして、彦十蒔絵は木地、塗り、加飾などを完全分業制で漆芸作品を造っていきますので、どの職人さんも私も含めて誰一人完成品のイメージができていないのです!
言い方を変えれば若宮の頭の中にある青図が、職人さんへパーツ・パーツで分けて伝わり、最終的に一つの作品として仕上がっていきます。これは富士山を登ることに似ていて、何ルートで登るか、五合目なら少し登った感があるけどまだ先が見えない、七・八合目までたどり着ければ少しゴールが近くなったような気がする、でもまだ頂上へ行けるか分からない、なかなか先の見えない戦いだと想像してください。(←私は富士山を登ったことがないから本当に想像だけです、笑)
この龍のロゴも同じような流れがあって誕生していたのです!!
2018年以前に完成した作品をコレクションしているお客様なら、作品のどこかに「花緒」・「彦十」・「彦」の模様や文字が蒔絵で描かれているサインがあると思います。はっきりと分かるサインもあれば、黒漆で描いたサインもあります、小さい根付なんかは虫眼鏡を使わないと見えないような繊細な筆で金蒔絵したサインもあります。とにかく海外へ行くと、外国のコレクターからはよく作品のサインはどこ?描いてないのなら要らない。とか、日本と違うことを要求されますので、次第に作品にサインを入れることが楽しくなってきました。
若宮は「龍」をテーマにする作品が多いです!
古来中国や日本の民俗文化で、縁起物として「龍」は色んなモチーフに使われてきました。「帝王の象徴」・「想像上最強生物」・「天に昇る龍」・「富士超えの龍=不二越えだから唯一」・「権力の象徴」・「雨水をもたらす」など。兎に角、龍はすごいパワーを持つモチーフとして皆さんに理解されているんですよね。そして、日本の絵師も「龍」に取り組む方が非常に多かったです。例えば俵屋宗達、狩野探幽、雪村周継、海北友松、葛飾北斎、狩野芳崖、横山大観、橋本雅邦、下村観山など、それぞれ個性がありますが、訴えたいモノは何でしょう!?
同じように、若宮の中にも常に「龍」のテーマが存在します。
さらにもう一つ理由がありまして〜〜それは“辰年生まれ“だからで〜す!
この点に関しては理解しやすい発想で、皆さんも「うん〜なるほど」っと納得できると思います。
↑佐々木栞 筆者wawa↑
そしてこの龍に繋がっているちょっと天然(?)な職人が彦十蒔絵にいます。加飾部門の沈金を担当している佐々木栞さんです。秋田県出身で輪島漆芸研修所卒業後、輪島の工房で修行してから独立した彼女は、古美術が大好きで趣味は骨董収集!時間がある時はアンティークフェア・蚤の市、骨董店を巡っています。一緒に仕事をし始めた頃はまだ20代ですがこの趣味はすでに定着していました!(実は10代の頃からの趣味です笑 本人談)
彦十蒔絵は新しい職人さんと仕事を始めるにあたって、最初は仕事のすり合わせをします。(←職人の年齢、性別、実力関係なく必要な作業です)
具体的に言うと、職人さんが得意とする技は人によって違います。気質や感性も違います。まず仕事の見本を提示してもらって、会話の中で彦十蒔絵の要求や求める理想論を伝える、仕事をしてどれくらいの完成度のものができるのか、仕事を一緒にしてみないと判断が難しいでしょう!!だから、一人一人の職人の特徴を掴んで、さらにその人として挑戦してもらう限界を頼んでいくような仕事のすり合わせを最初に確認しあいます。。。。。これは当たり前のことですが、一般的には理解してもらいにくいです、どうやって職人の判断をするのか。長い仕事の経験がある所謂ベテラン職人がいい?女性より男性が職人に向いている?代々職人の家だからすごい技ができる?とか、、 この差は確かに付けにくい。それはそうですよね!職人センター試験みたいなものがないですからね。
佐々木さんへ最初にお願いした仕事は「銀地の蒔絵をした仕上げ面に沈金ノミで彫る」という内容でした。彼女は私からのお誘いに対して、最初は自分よりも上手な職人を紹介してくれました。
(銀地に彫った経験が無かったのでビビっちゃいました笑 本人談)
でもその人に断られてしまったので、私は再度、佐々木さんを誘いました。
佐々木さん:「ん〜、うまくできるか分かりませんが…やってみます」
正直に言いますとベテランの職人さんもこのような仕事を断られたことがあるんです。なぜかと言うと、銀地仕上げをした表面は金属なので、通常彫っている漆の表面とは全く違う状態なんですね。ノミの刃もすぐに切れ味が悪くなるので、“少し彫ったら研ぎをする”この繰り返しの作業はとても効率が悪く、思ったように作業が進まないんです。。
だから断れるのは承知の上です。でも、彼女は受けてくれました!!
更にびっくりするのは、、、、、、
若宮は普通の沈金を頼まないつもりでいたんです!(どういうこと、驚!)
若宮:「佐々木さん、この銀地に片切彫をしてもらいたいですが、できますか?」
佐々木:「習ったことはあるんですけど…実際、輪島でそういう仕事を頼まれたことがなくて(^-^; できるかなぁ、、私で良ければ、やってみます。」
私:「片切彫???」
その何日か後に佐々木さんが1回目の依頼を仕上げて持ってきました。
沈金は金箔を入れて仕上げるのが一般的ですが、銀地に素彫りだけで仕上げたものは印象が全く違う!と思いました。
若宮はとても満足して、すぐに次の仕事の相談を始めました。
こうやって、若宮は沈金ノミを使って表現する可能性を感じたんですね。
↑銀地 片切彫 瀑布硯箱↑
そしてとある日、佐々木さんと仕事の打ち合わせをしている時に、若宮が本棚から1冊の本を出してきました。それは龍の図案集でした。
若宮:「佐々木さん〜これ彫れる?」
佐々木:「どれですか?」
若宮:「北斎の龍なんだけど、俺、いつかこれをノミで表現したいと考えてたんだよね」
佐々木:「そうなんですか~(⌒∇⌒)あ、これだったら線彫りでいけそうですね」
若宮:「じゃ〜この龍を小さくして、棗の裏に彫ってもらえる?」
佐々木:「棗の裏に…できると思いますけど、結構小さくなりますよね…もしかして1㎝ないくらい…?」
若宮:「そうなるね!あとね、龍の手に文字を持たせるようにして欲しい。彦十蒔絵の“彦”をね、龍に持ってもらって、彦十蒔絵のサインにしてもらいたい。 蒔絵だと消されることも想像できるので、彫ってあればずっと残るから、柴田是真のサインも彫りでよく見かけるのもきっと同じ理由だと思います。」
佐々木:「はい、、、 分かりました。頑張ります!」
こうやって、彦十蒔絵の龍のロゴサインが生まれました。
良い作品が完成できるのはタイミングとマンパワーがとても大事で、毎回奇跡と言っても良いと思います。このロゴサインの誕生も条件が揃ったから可能になりました。これが彦十蒔絵の物造りなんです、物を造る前に『人』作りですね!
↑多々羅椀 裏にある沈金ロゴサイン↑
彦十蒔絵の多々羅椀の裏に彫ってあるこの龍がまさしく2018年から誕生した彦十蒔絵のロゴサインになります。
彦十蒔絵の見立漆器にもこのロゴサインが多く使われています、作品によってサイズは色々ありますが、作品の雰囲気に合わせて若宮の指示の元で佐々木さんの腕が見られます。
*多々羅椀についてまた別途でご紹介致します。
彦十蒔絵 高 禎蓮/Wawa